他山の石 「日本国中狐狩り」  茄子作 九

 ある時、宇喜田秀家の夫人がモノノケにとりつかれたとかで、・狂気したことがありました。老狐のしわざだということでした。
 それを聞いた秀吉は、さっそく手紙をしたためると、稲荷(いなり)神社に呈しました。その文面が、まことにふるっていました。
「このたび、宇喜田の女につきまとうたモノノケは狐のしわざとのことでござる。なにがゆえに、かかることをいたすのでござるか。ふとどき千万でござるが、このたびだけは格別見のがすことにいたそう。
 されども、なおこの上ふとときをなしつづける場合には、毎年、日本国中に狐狩りを命じ、津々浦々の狐という狐を狩り尽くす所存でござる。わが天下にある人も獣も、わが輩の意を重んぜざるべからず。すみやかに狐のしわざを止むべし。 委細は神官に仰せつけたるとおり」
と。 
 ここにおいてか、宇喜田夫人の邪気は去ったという話です。
 ごしょうちの通り、稲荷の使いが狐であるところから出た秀吉- 流の愉快なやりかたで、思わず失笑してしまいます。
 おどすのに、日本国中の狐狩りをもってしたというところなど、いかにも秀吉らしい大傑作でした。
 ありもしない俗信を退治するのも、こんなふうにやると、二倍の
効果があるかも知れません。

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